2010.02.26
ブランドディレクター千田の生の声をインタビュー形式でお届けする「・・・」。
今回は2010SSコレクションについて話を聞きます。
《「クロージング」をルーツに持つ》
──今回は2010スプリングコレクションについて話を伺います。店頭にも続々登場していますね。まずは今期のテーマからですが。
千田(以下C):今回のテーマは「クラシックアーミー」。
sage de cretの商品の中でも重要なテーマのひとつが「ミリタリー」ですが、今回はそこに重点を置いて、突っ込んだ物作りをしています。
──ミリタリーモチーフのアイテムが中心に。
C:もちろん、ワークやトラディショナルをベースにしたアイテムもいつものようにありますが、ミリタリーをベースにしたものが多くなってはいます。
──今回テーマでは「ミリタリー」と言わずに、「アーミー」という別の言葉を使っていますよね。これはあえて言い換えているのでしょうか。
C:そうですね。
今回のテーマは、いわゆる戦争のためのUSの「軍物」といったニュアンスの量産ウェアとは違うもの、もっとクラシックだったりトラディショナルに近い「クロージング」をルーツに持つヨーロッパのミリタリーウェアをベースにしています。
──前回や前々回のこのコーナー「・・・」の"Bible"の回で話されていた、ヨーロッパのミリタリーウェアの面白さとも通じる部分ですね。
C:一般的には「ミリタリー」と聞くと、やはりUSの効率よく大量生産されるワークウェアをベースにした軍服をイメージしがちですが、ヨーロッパのものは、その歴史的背景もあって「クロージング」の要素がずっと強いです。
「ミリタリー」という言葉が、なんとなくUSのをイメージしてしまう気がして、今回はあえて「アーミー」という言葉を選びました。
──ヨーロッパというと、具体的にはどの辺の国になりますか。
C:まずはドイツやイタリア、それにフランスや、あとはデンマーク軍のものなどもモチーフにしています。
フランスだと、2月のミリタリージャケット[no.3499]や1月のフーデットパーカ[no.3493]。
L: ミリタリージャケット[no.3499] / R: フーデットパーカ[no.3493]
C:イタリア軍のコンバットジャケットの要素を掛け合わせた2月のカーゴパンツ[no.8443]、「ル・ピロタージュ」で限定別注色を作ったものですね。
カーゴパンツ[no.8443]
C:3月に発売するヘンプコットンのシャツジャケット[no.3553]や、4月予定のハイカウントツイルの6分丈パンツ[no.8452]はドイツで、デンマークは1月のコットンブロークンミリタリージャケット[no.3491]です。
L: ヘンプコットンのシャツジャケット[no.3553] / R: ハイカウントツイルの6分丈パンツ[no.8452]
コットンブロークンミリタリージャケット[no.3491]
《ディティールに現れる》
──今回はUSものをベースにしたデザインは作っていないですね。
C:いつも反響が大きくて、ここ何シーズンかデザインを変えながら作ってきていたUSのものをベースにしたヘリクルーパンツも、今回はあえてコレクションから外しました。
──クロージングの要素が強いヨーロッパのモデルをモチーフにしたのはなぜなんですか。
C:前回の「・・・」でも触れましたが、大量生産されるワーキングウェアと比べると、ヨーロッパのものはデザインや作られ方がディティールに至るまで、本当によく考えられているんです。
だから今回のコレクションは縫製のステッチの入れ方などもより一層注意して、繊細なディティール作りを重視しました。
もちろん今までは雑だったってことじゃないですよ。
ヨーロッパのアイテムがクロージングをベースにしていること、それがよく現れているのが縫製やステッチなどのディティールなんです。
──もともとブランドの大きな強みであったディティールの部分が、さらに進化しているといった印象ですね。
《モノトーンに寄った色使い》
C:それと、ディティール以外でヨーロッパを意識しているのがカラーリング。
色目です。
ミリタリーアイテムで最も多いカーキは、今回あえてグレイッシュにしています。
──アメリカと比較すると、服に限らずヨーロッパのカラーリングはすごく諧調が豊かな印象がありますよね。
C:いかにもというミリタリーカーキだと、なんとなくUSをイメージしてしまいがちです。
カーキ以外のカラー展開では、今回はブラックが多いのも特徴です。
ブラックを始め、モノトーンに寄ったクラシックな色使いが増えています。
こうすることでミリタリー以外のアイテム、例えばクラシックタイプのパンツやコットンのシャツとのコーディネートの相性もぐっとよくなります。
《機能性を徹底的に追及した末のデザイン》
──コーディネートであわせると、ミリタリーをベースにしたアイテムを着ていながら、およそ戦争を思わせるような土臭さとは遠いイメージになりますね。
C:ミリタリーがモチーフのアイテム量自体は増えているんですけどね。
──戦争が好きでミリタリーアイテムを作っているわけではないとよく話してますよね。
C:戦場のような、生命を左右するの環境下での機能性を徹底的に追及し、その末にうまれてきたデザインの美しさが、僕にとってのミリタリーアイテムの魅力です
それをリアルクローズとして楽しんでもらいたい。
ですから、コレクションもミリタリーモチーフでないアイテムが必ず入ってきます。
このサイトの「Products」のページを見ていただけるとわかりますが、コーディネートの中に例えば上品なクラシックパンツや清涼感のあるシャツ、シューズに白いスニーカーを持ってくるなど、必ず「外し」のアイテムが入ってくる。
外しの要素が含まれることで sage de cret の世界観ができあがります。
《製品染めカーゴパンツ》
C:今季のテーマ上で欠かせないアイテムが、この新デザインの製品染めカーゴパンツです。
──さっきも話に挙がった、sage de cret の軍パンボディに、イタリア軍コンバットジャケットのモチーフを掛け合わせたものですね。
C:sage de cret らしくありながら、まったく新しいモデルとなっています。
まず、ヨーロッパの雰囲気を持たせるために素材選びから見直しました。
今までミリタリーパンツではリプセコットンという素材を頻繁に使用していましたが、今回はそれを変更しました。
リプセコットンという素材は、製品染めやバイオウォッシュなどの加工をかけたると、パッカリングやアタリ、スレなどの表情がはっきりと現れてくるのが特徴です。
ただ、この素材の特徴は、どちらかというとアメリカ的な見え方に近づいてしまうので、今回は別の素材、強撚ウエポンという素材を使っています。
これまでのイメージを一転させ、ヨーロッパな雰囲気を持たせています。
──この強撚ウエポンとははどういった素材なのですか。
C:強撚という字のとおり、強く撚り上げたコットン糸を高密度にしっかりと織りあげた素材です。
素材に対してかける加工は従来通りに、製品に縫い上げてから硫化染めバイオストーンウォッシュをかけているのですが、この素材だとアタリやパッカリングが出にくく、表面が微起毛していてタッチが柔らかい。
品の良い表情に仕上がるのが一番の特徴ですね。
《トータルにひとつのアイテムとして仕上げる》
──デザイン面では...
C:これまでのフライト系の6ポケットパンツとはまったく別物に仕上がっています。
C:オリジナルのボディをベースに、右フロントのウォッチポケットと、右もも前後とサイドの3つ、さらに左もものサイドのポケットを掛け合わせてデザインしています。
──新たにミックスされたポケットが、前回の「・・・」のコンバットジャケットのものですね。新しいデザインなのに、まるで実際のイタリア軍で本当に配備されている様に感じてしまいます。
C:そこがまさに勝負所です。
素材、モチーフ、ディティール、バランス、カラー、それらがトータルにひとつのアイテムとして仕上がっているかが、まさにデザインの醍醐味です。
《機能性と美しさ》
C:モチーフにしているコンバットジャケットからのポケットには2種類の形がありますが、どちらも構造は同じです。
C:このポケットは本当に良くできています。
通常、ポケットのフラップというのは、上辺を身頃と縫い合わせる際に、激しく扱っても外れないようにしっかりとステッチを入れます。
それが、このポケットはフラップの生地がパッチとして身頃側に回り込んでいて強度が確保されているので、表から見える形ではにステッチが入りません。
そのため見た目がやさしくなり品が良い印象になります。
美しさの秘密はポケットの袋の部分にもあります。
ポケットの前面、側面、底面が同じ一枚の生地を箱のように折り曲げた作りになっていて、その折り目の部分に入っているステッチが、折り目からわずか3mmのところで打たれている。
通常のミリタリーパンツのポケットだとだいたい折り目から7mmで、強度を持たせるため2重にステッチが入っています。
──それがこのコンバットジャケットの場合同じ1枚の布が回り込んで強度が確保できているため、3mmのステッチ1本で仕上げられるんですね。
C:強度をしっかりと確保しながら美しく仕上げる、クロージングの国イタリアで生まれたことを強く感じさせてくれるデザインです。
恐らくルーツはハンティング系にあるデザインではないかと思います。
最初はどうしてこんな作りになっているのかが不思議で、ひとつひとつ読み解いていくうちに、デザインのすばらしさに改めて圧倒されました。
《変える要素と残す要素》
C:自分たちのデザインをしていく中で、多くの物をベースやモチーフにし取り入れていきますが、元のものを自分たちの解釈に変えていく場合と、そっくり残す場合があります。
今回のポケットは一切変えないことで、パンツ全体が生きてくる良い例ですね。
──異なる要素を掛け合わせていくとガチャガチャしてしまいそうな気がしますが、このパンツは最初からこういうものがあったかのようにまとまっていますね。
C:異なる要素をミックスする場合に重要なのがバランスです。
このカーゴパンツでは、サイドポケットをオーソドックスな位置につけるとフロントの股上スペースが間延びしてしまうため、通常のパンツに比べてウエスト寄りの高い位置にずらしています。
それに合わせて内股の縦型ポケットの位置も調整し、角度もコンバットジャケットと同じく斜めにつけています。
──角度も忠実に再現されているんですね。
C:角度に関しては、まあ、作っているタイミングのノリとか空気で決まった部分でもありますけどね。
がんじがらめに、何がなんでもオリジナルに縛られていっても面白くなるとは限りません。
今回は角度も忠実に持ち込んだら面白いな、良いバランスだなという判断をしました。
と、言いながらも、きっといつデザインしてもこういうバランスに仕上げるだろうとは思いますけど。
バックポケットもこの斜めのポケットに合わせて今回は角度をつけて配置しています。
《ウォッチポケットと消しダーツ》
──股上の前面右についているポケットのモチーフは、コンバットジャケットではないですよね。
C:このウォッチポケットはよくチノパンなどのクラシックなパンツにつけられるものです。
──まさに今季のテーマの「クラシック」の部分ですね。
C:このポケットは、全体とバランスをとるために通常のウォッチポケットより位置を下げて、ポケット口を広くデザインし直しています。
あえてオリジナルから変えている部分です。
他にもクラシックパンツから持ち込んだ要素が、フロントに入れている消しダーツです。
消しダーツを入れると、程よくフロントにふくらみをもたせることができ、着用時の立体感がきれいに出ます。
多くの異なる要素を持ち込むには、バランスが命です。
バランスを外すと本当にガチャガチャとした嘘っぽい仕上がりになってしまいます。
普通だと、ひとつのパンツに3タイプものデザインの違うポケットをつけるなんてことは、うるさくなってしまうのでなかなかやりません。
今回このパンツをデザインする上では、ポケットがうるさくならない様にコントロールしバランスをとっていくことが一番難しかったのですが、その部分こそ、デザインをしていく上でのまさに醍醐味でもあります。
《クラシックアーミー》
──本当に今季のテーマ「クラシックアーミー」を隅々まで体現したパンツですね。これを始めとしたスプリングコレクションが続々と店頭に並びながら、一方ではサマーコレクションがもう発表ですね。
C:夏も基本的には春の「クラシックアーミー」を踏まえた形ですが、夏らしい清涼感がプラスされるのと、少しワークの要素も増やしたものになります。
こちらも楽しみにお待ちください。
《THE LAUNDRESS》
C:それと、今シーズンは商品以外でも新しい試みが色々あります。
──そうですね。
C:いま、オンラインストアのノベルティにしている "THE LAUNDRESS" のファブリックフレッシュ。
ウェアの消臭スプレーですね。
THE LAUNDRESSは、衣類のケア用品を展開するブランドなのですが、縁あって sage de cret オリジナルパッケージでノベルティをできることになって。
──これはとても嬉しいですよね。他のケアアイテムも sage de cret オリジナルセレクトで是非欲しくなってしまいます。
C:面白いかもしれませんね。
《マンスリー・サージュデクレ》
C:コラボレーションということでは、うちのル・ピロタージュの別注カーゴパンツや、ウェブストアの"BEYES"で展開している「マンスリー・サージュデクレ」の6ヶ月連続別注ボトム。
──これも売り切れ続出の大反響企画ですね。こないだル・ピロタージュでやっていたボトムサンプルセールもそうでしたが、パンツアイテムに対しての反響は凄まじいものがありますね。
C:こういった方向でも面白いことを、これからどんどんやっていきたいですね。
About〈・・・〉
ディレクター・千田仁寿が、〈CHENTO OTTO〉〈DEZART〉を経て2001年より始めた。
〈サージュデクレ〉とは、「賢明な」を意味する仏語の「sage(サージュ)」と「布告」という意味の「decret(デクレ)」を掛け合わせた造語。
ステッチやジッパー、ラインやフォルム、染めや素材、縫製に至る細部にまで、一枚の洋服における様々な役割について、考え抜かれたワードローブを提案している。
また、ブランドの基本概念としてワーク、ミリタリー、トラディショナルこそメンズウエアのベースであると主張。洋服の歴史的な背景や伝統は重んじながらも、既成概念に捕われ過ぎないデザインと、洗練されたギミックを上手く表現している。
そのため、高いファッション性を備えながら、どこかリアリティを感じさせるブランドに仕上がっている。ここ「・・・」では千田の声を通してブランドの世界を紹介します。