sage de cret

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2010.01.29

Bible part2

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ディレクターである千田の言葉からブランドの背景をひも解くコーナー「・・・」。今回はブランドが所有する資料サンプルについて聞きます。


《実際に触ってみて初めてわかること》
──前回の「・・・」(2009.11.27 update)で、商品企画を進めていく上での資料として、ミリタリーウェアやモータサイクルアイテムの洋書や雑誌を紹介していただきましたが、ブランドでは資料として本のほかに、資料用のサンプル商品もお持ちですよね。

千田(以下C):そうですね。

──今回はその辺りについてお話を伺いたいと思います。本など、目で見る資料と実際の服の現物ではやはり違いますか。

C:全然違いますね。
本や写真などからわかることというのはやはり限られてしまいます。
デザイン上の形状や色などは本からもわかりますが、現物の資料サンプル、というか簡単に言ってしまえば古着ですが、これらからは素材感や肌触り、写真じゃわからない裏地や隠れた部分、実際に着用してみて初めてわかることも多いですね。
圧倒的に情報量が多いです。


《2010SSのカーゴパンツ》

──そんな資料サンプルからは、どんなことを参考にされるのでしょう。

C:ちょうど今生産しているカーゴパンツの、9つのポケットのうち股の4カ所は、資料サンプルのイタリア軍コンバットジャケットのポケットパーツ2種類をモチーフとして使用しています。

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L: sage de cret カーゴパンツ / R: イタリア軍コンバットジャケット

──オンラインストア限定で別注色を作っているものですよね。

C:はい。
今季2010SSシーズンのコレクションの中でも中心となるアイテムのひとつです。
内股部分にポケットのついたカーゴパンツというのが実際に存在するのですが、今回はそこにこのデザインを持ち込んでいます。
生地がパンツ全体の身頃から独立した別地でできていて、フラップの部分が身頃側に回り込み、さらにその上にもうひとつ、別地のポケットの袋部分がついています。

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L: sage de cret カーゴパンツ / R: イタリア軍コンバットジャケット

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L: sage de cret カーゴパンツ / R: イタリア軍コンバットジャケット

──その設計を踏襲したポケットが、カーゴパンツの右内股の前後につけられているんですね。過去のサンプルがこういった形で生き返ってくるきている。


《理解した上で手を加えていく》

C:資料サンプルのディティールが新しいアイテムへのでヒントになってくれることももちろん多いのですが、それは本や写真資料からでもある程度理解できます。
それよりも、本来、サンプル資料の価値は、その現物を通して、製品がどういったことを目的として、どのようにデザインされたかを読み解くことができることにあります。
情報量の多さが生きてくる。

──と言いますと...

C:例えばサイジング。
実際に装備されていたM-51やMA-1を見ると、サイジングやバランスが特殊です。
M-51、いわゆるモッズコートですね、これは本物だとサイジングがかなり大きく作られています。
装備品を身につけたさらにその上から羽織るためのものとして設計されているため、こうしたサイジングになっています。
運動性を確保するためにサイジングも意図的に大きく作られているので、日常僕らがアウターとして着るにはちょっと無理があります。
タウンウェアとしてデザインし直す際には、このサイジングの部分も手を加えますが、なぜそもそも大きく作られていたかを理解した上で手を加えていくことで、M-51の「らしさ」を残していくことができます。

MA-1だと、袖が不思議なラインに湾曲しています。
これも、使用される状況、戦闘機内の限られたスペースでの運動性を確保するのに最適なパターンで作られています。
こういった特殊な形は、実際に一度バラバラにしてみることで見えてくることも多くあります。
こういったことが本や写真だけではなかなかわからない面白い部分ですね。

──たしかにこうして実物を前にすると、その意味が強く感じられますね。


《やり過ぎなのか、物足りないのか》

C:特にミリタリーアイテムの場合、全体のサイジングやバランス、さらにはポケット1つ、ステッチ1本に至るまで意味がある。
シンプルなようで、機能面でとことんまで考えられています。
実物のサンプルを見ながらディティールの目的を想像し、読み解いていきます。
実物でないと見えてこないことがたくさん詰まっています。

C:タウンユースにリサイズをする際、本来のものがどういった目的で各箇所がデザインされたかを理解していることで、残していく部分や生かしていく部分、反対にあえて無視したり装飾化していく部分が見えてくる。
必要な部分を残してリアルさを持たせたり、あえて無視し異なるディティールを持ち込むことで遊びの要素も引き出してデザインしていきます。
この加減が、やり過ぎなのか物足りないのかは人によって感じ方が異なりますが、それがブランドのカラーであり、そこにうちだけのオリジナル商品の面白さが生まれてくると思います。


《M-51》

──加減の具合で言うと、ここにモデルとなったサンプルのあるM-51も面白いですよね。

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L: 資料サンプル / R: sage de cret オリジナル

C:M-51モデルは、前身ウエストのポケットが特徴的で、フラップ部分まで袋状になっていますが、ここを変えてしまうとリアルさが失われてしまいます。
こういう部分はうちで作る際にも変えていません。

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──このM-51は『2nd』誌2010年2月号でも紹介されていましたが、ブランドオリジナルのものでは、フロントのジップ脇にテープが打たれていますよね。

C:ここは sage de cret オリジナルのデザインになります。
このようにモチーフを周到していくこともありますが、元のリアルさを作り出すために、あえて違う手法を使うこともあります。
元になったこのサンプルのM-51は、高密度織りの素材感が独特の張りをもった面白い肌触りなのですが、これを再現するために sage de cret では染色を釜ではなくスプレーで行いました。


《自然と生まれる褪色や劣化》

C:デザイン上の話とはまた別なのですが、資料サンプルで興味深いのが、時間による風合いの変化。

──「ユーズド感」みたいなものですか。

C:簡単に言ってしまうとそうですね。
ミリタリーの資料サンプルは軍の払い下げ品がほとんどです。
色々な部分が劣化していたり、使われてきた中で補修されていたり、新品では見ることのできない面白さがあります。
そういうものを見ていると、発想意欲がかき立てられます。

──確かにひとつひとつ見ていくと、生地が裂けていたり、それをまた後から補修した跡が見られますね。

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C:実際に使っている人が手を加えたことによる変化や、着用されていくうちに自然と生まれる褪色や劣化などですね。
このトレンチコートには革のくるみ釦が使われていますが、雨の中で着られていたのか、革素材の劣化の風合いが面白いんですよ。
それで以前にうちでも、革の釦をわざと水に浸けてこの風合いを再現し、ジャケットに使ったことがあります。

──たしかに、トレンチコートは本来レインウェアだということ、その目的でデザインされた意味を感じさせてくれる話ですね。

C:レインウェアとして作られているものは袖も上側や肩に生地と生地の縫製がこない様に設計されているものも多く面白いですよ。

──一つひとつ見ていくとものすごく興味深いですね。


《一つひとつに必ず目的、意味がある》

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C:最初に話に挙がったイタリア軍のコンバットジャケットだと、前身のポケットフラップについている釦の位置、これがフラップの角より少し内側に入れてあります。
こうするとフラップの角の部分が引き手のような役割をし、ポケットが開けやすい様に考えられている。
グローブをつけたままでも扱えます。
モーターサイクルのアイテムなどでも、こういった仕様はよく使われています。
釦の話では、素材のチョイスもよく考えられていて、他の部分に接触して傷を付けては行けない部分には金属ではなくナットボタンを使用したり、あとは比翼にするのもそういった目的があります。

──このジャケットには前身の内側にベスト状の帯のようなパーツがついていますが、これはいったい...。

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C:これも面白いデザインですよね。
これは脱いだ際に、左右内側のベルト状の部分にだけ両腕を通してバックパックの様に背負ってしまうことができます。
さらに、負傷兵を運ぶ際に、フロントさえ開ければこのベルト部分を引っ張って移動できる。

──僕らの日常の中ではなかなか発想もしない状況ですね。

C:ラグランスリーブも、負傷兵のためにデザインされたと言われています。

──そうなんですね。

C:ミリタリーアイテムは極端に実用性が求められる、時に生死を分ける厳しい環境下で使われるものなので、本当に良く考えられてます。
シンプルなようで、一つひとつに必ず目的、意味があります。
その面白味を生かしながら、あえて変える部分は変えていく。
そうずることで sage de cret だけのオリジナルデザインが生まれてくるんだと思います。

──こうして伺っていると、サンプルを読み解く作業は、基礎体力を養うような作業ですね。


《リアルでありながらオリジナルなもの》

C:バランスやディティールの意味を理解することで、手を加えていい部分とダメな部分、さらには残してはいけない部分を知ることができます。
そこを踏み外すと、それっぽい別物やただのコピーになってしまう。
リアルでありながらオリジナルなものを作っていく上で、とても大切なことです。
例えばさっき話したM-51にはもう1カ所外せない要素があります。
身頃の裾にスピンドルが通っていますが、ここには上下にそれぞれステッチが入っています。
このスピンドルが通る部分の下側のステッチは略してしまうこともできるのですが、僕はM-51の「らしさ」というのはこの下側のステッチの存在も重要だと考えています。

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──よく「ステッチ1本にまで意味がある」とおっしゃっていますが、それはこういうことなんですね。

C:デザイナーによって考え方は違いますが、僕は、M-51を元にM-51ではないものを作るのでなく、誰が見てもM-51だとわかりながら、それでいて意図を持ってオリジナルなデザインをすることでリアルさを作り出したい。
見た人が、元になるモデルがわかり、それでいてブランドのオリジナリティを感じてもらいたい。
ステッチ1本まで芯から理解することで、完成度を持ってsage de cret のデザインが産み出せたらと思っています。


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About〈・・・〉

ディレクター・千田仁寿が、〈CHENTO OTTO〉〈DEZART〉を経て2001年より始めた。
〈サージュデクレ〉とは、「賢明な」を意味する仏語の「sage(サージュ)」と「布告」という意味の「decret(デクレ)」を掛け合わせた造語。
ステッチやジッパー、ラインやフォルム、染めや素材、縫製に至る細部にまで、一枚の洋服における様々な役割について、考え抜かれたワードローブを提案している。
また、ブランドの基本概念としてワーク、ミリタリー、トラディショナルこそメンズウエアのベースであると主張。洋服の歴史的な背景や伝統は重んじながらも、既成概念に捕われ過ぎないデザインと、洗練されたギミックを上手く表現している。
そのため、高いファッション性を備えながら、どこかリアリティを感じさせるブランドに仕上がっている。ここ「・・・」では千田の声を通してブランドの世界を紹介します。