sage de cret

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2009.06.19

Inspiration


ブランドの背景にスポットを当て、ものづくりの秘密に迫る「・・・」。
今回は服作りの出発点でもある、アイデアやエネルギーの源泉について話を聞きます。



《音楽は集中するためのツール》

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──服作りをしていく上で商品企画のアイデアが、洋服以外のもの、例えばアートや音楽、人やものなどに影響を受けることはありますか。

千田(以下C):ありますよ。全部が服のデザインに直接つながっていく訳ではないですけど、いろんなものがいろんな形で服作りにつながっていきます。

──例えば音楽はどうですか。

C:音楽を聴いて曲から直接アイデアが湧き出てくることはそんなにないです。
好きな音楽は色々ありますけど。
音楽から発想をすることはないかもしれないですが、商品企画を練る時には好きなものを聴きながら机に向かうことが多いです。
気持ちを昂らせてくれる、集中するためのツールですね。

──どんなものを聴きますか。

C:気分で変わってきますね。
ノリノリで気分を高めるぞって時は Weezer とか Oasis が多いです。
ディープに潜っていくような気分だったり、神経を研ぎすましている時には Nirvana かな。

──他のジャンルのアート、例えば画集や写真集に触発されたりしますか。

C:それもあんまりないかな。
個人的には見ますけど。
僕らの作っているものがリアルクローズのせいもあるのか、あまり服作りとは結びついてこないですね。



《色のイメージを自分の中で具体的に持つ》

──仕事をしている時以外だと、アイデアが出てくるのはどんな時なんでしょう。

C:いまパッと思い当たるのはまず映画かな。
視覚から入ってくる情報に発想が刺激されるのかもしれません。
五感が開かれる。

──映画館にはよく行かれますか。

C:今はもうだいぶ減りましたが、若い頃は本当によく見に行きました。
銀座、有楽町あたりにはよく足を運びましたよ。

──好きな映画は...

C:そうですね、たとえばヴィム・ヴェンダースの「パリ、テキサス」とか、どちらかと言えば、動きのあるものよりはまったりとしたもの。
小規模な映画館にかかっているものが比較的多いかもしれません。

──「映画からの影響」と一口いに言っても、具体的な登場人物のファッションから、もっと大きな部分ではストーリー、さらには映画自体が持っている温度や世界観まで、色々着目点があると思いますが、特によく刺激を受ける部分みたいなものはありますか。

C:映画のストーリーや世界観からそのままアイデアが湧いてくるというのは、そんなにありません。
もちろん、無意識に登場人物の着こなしなどは気になっているとは思いますが、それは個人的な感想で、ブランドの企画や商品とはまた別ですね。
商品にまでつながってくることと言ったら、ひとつは映画の中の風景、景色です。

──風景から商品に、ですか。と言いますと...

C:色です。景色の色合いや建物の色などからはインスピレーションを受けますね。
カメラマンの話題にもよく挙がる話ですが、国が変わると日光の色も違うなんて言いますよね。
映画の中で目にする色がヒントになることがあります。

うちで使うことの多い色で例えをあげると、「カーキ」や「スミクロ」。
カーキと一口に言ってもその幅は広いです。

──カーキはちょっとした変化で、赤っぽくも黄色っぽくも青っぽくもなりますね。色の濃さや強さによっても印象が変わりますし。

C:元々のミリタリーアイテムのカーキは葉の色から来ていますが、こういう中間色の色出しは、染めの行程でもすごく難しいんです。
だから色のイメージを、自分の中で具体的に持っていることがすごく大事になります。



《言葉にして書き留める》

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C:景色から触発されるということでは、「旅」も同じですね。
旅だと、実際にその空気の中にいますから、よりいっそう刺激されます。
パリでもニューヨークでもミラノでもフィレンツェでも、それぞれに空気が違い、色が違う。
うちの商品の色には、そうやって実際に目にしたものから生まれているものも少なくないです。
色は頭で考えて出せるようなものでもないですし。

そういえば、昔、まだ自分が駆け出しの頃に面白い生地屋さんがいて、当時の僕みたいな新人に、「この生地はこんなデザインに使うんだ」って、この人は生地屋さんなのに目の前ですらすらと描いて、デザインを教えるような人がいまして。
その人は、秋になるとよく京都に行くんです。
それが景色から生地の色合いを探すための旅なんです。

──すごいですね。

C:昔はそんな個性の強い人もいっぱいいましたね。
さすがに僕は色を探すためだけに旅に出ることはないですが、でもそれくらい旅には刺激されます。
いろんなヒントが飛び込んできます。

情報の多さで考えると、僕たちのいる東京は最もその量が多いのかもしれないですが、やはり旅先では自分の「眼」も違いますし、五感がフルに働きます。
いろいろなものが自分の中に入ってきます。

いつでもメモ帳を必ず持ち歩いていて、感じたこと、飛び込んできたものを書き留めています。
これは海外に出た時ばかりでなく、ふだんから日常的にしていて、ちょっとしたことから発想が生まれた時にそれを書き留めています。

──絵で描かれるんですか。

C:いろいろです。
自分の中で調子のいい時には言葉で残してることが多いみたいですね。
単語だったり文章だったりイメージ的な言葉、抽象的なものが多いのかな。

──言葉と言えば、次期2009年A/Wシーズンの「風化するように」とうのテーマですが、これもそういう中からうまれたものなのでしょうか。

C:まさにそうです。
このテーマは今年の1月に出張で行ったニューヨークです。

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けっこう前からぼやっとしたイメージ自体は持っていたのですが、それがニューヨークでピタッと焦点があって、もう日本に帰ってくるなりすぐ生地屋さんに行って生地を作ったくらいでした。
もちろん思いついたアイデアの中には後から見返すとさっぱりなものもありますが、旅先でのアイデアは、後に実際の商品として良い形になっていくことが比較的多いと思います。



《丁寧に組み上げて、余分なものを削ぎ落とす》

──ボツになるものもやはりあるんですね。

C:後から見返すと、なんだこれはってものもありますよ。
お酒が入っているとけっこうアウト。
描いたものを翌日見ると変なものが多くて。
そもそもメモも取らずそのまま忘れちゃうってのが一番多いのかな。

──なんだかわかるような気がします。でもそんなものも混ざりながら、日々メモ帳にイメージがストックされ、実際のデザインの段階で商品に落とし込まれていく訳ですね。

C:純粋にクリエイティブな作業は年に数回、ワンシーズンの企画をゼロから描き上げるのに使える時間はだいたい2〜3週間しかないので、その時までのストックは大事になります。

──ワンシーズンのコレクションをそんな短い期間で企画するんですか。

C:短期集中で一気に描き上げます。

──僕はもっと日常的に、コンスタントに企画を進めているのかと思ってました。社内にいても全然わからないものですね。

C:毎日会社に来て、いつもいつも服のアイデアを考えることだけに没頭している訳にはなかなかいきません。
アイデアを実際に商品にしていくためには多くの作業が必要で、それには時間がかかります。
そういう実務的な仕事で狂ったように忙しい、追いつめられた状態の中で、平行して商品のアイデアも、というのは、頭の切り替えも難しいです。
そういう実作業を、厳しいスケジュールの中で集中力を研ぎすまして一気に進めていくのもひとつの醍醐味だし、まぁ、紙一重というか、あれはあれで好きなんですけど。
でもまあ、自ら好き好んでキツいスケジュールを計画的に組んでいる訳ではもちろんなく、あれは結果的にそういった状態になってしまいますね。

──本当に忙しい時に出る集中力は不思議ですよね。

C:そうやって実際に製品にしていく作業に集中しきった状態から、頭の中を、新しいデザインに向けて切り替えなければいけませんから、それにはある程度時間もいりますし、そういうタイミングでメモ帳を見返しながら、自然と切り替わるのを待つような感じです。

──体にゆっくり体験を思い出させるような作業ですね。



《自分の持っているものを出さないと、新しいものが入ってこない》

C:デザインって、さて始めようと机に向かって、いきなり頭で考えてポンポン出てくるものではないと思っています。
デザインを始めるまでに感じた多くのことを、丁寧に組み上げて、そこからまた余分なものを削ぎ落としていく。
色んなものを見て、感じている、普段からどれだけ五感を使っていられるかが大切なんだと思います。

東京にはこれだけ情報があふれていて、興味を持っていれば面白いものがどんどん飛び込んでくる。
ただ、情報やものの多さを逆に処理しきれない、自分の中のレッドゾーンに達してしまうこともあります。
拒絶すべきものはちゃんと拒絶していかないといけません。
旅は、そういう適度な情報量のコントロールと言ったらいいのかな、ニューヨークもたくさんのものがごった煮のように集まっているけど、あそこではそれが心地よい。

──自分自身の状態も、普段暮らしている街にいる時とはまた違いますよね。

C:日常とはまた違う感覚が働きだします。
商品を企画する上で、ちょろっと市場をリサーチしたぐらいでは当然うまくはいかないです。
時代もファッションも常に動いていて、それをコンスタントに見て、変化をつかむ、いつも感じて考えてることが、自然と最終的には商品につながってくるんじゃないでしょうか。

よく、アイデアが豊富なことを「引き出しが多い」と言いますが、新しいものを入れていこうにも、引き出しの量にも限りがあって、出すものは出していかないと引き出しがいっぱいになってしまう。
若い人はまっさらなところからスタートして、そこにいくらでも入っていくけど、僕らぐらいになると、もう既に多くのものが引き出しに入っている。
その中には過去の成功や、大事に思ってきたものもあるんだけど、時にはそれを捨てることも必要になります。
自分の持っているものを一度出さないと、捨てないと、新しいものは入ってこなくなります。
職種によっては、捨ててはいけない、時間をかけて積み重ねていくことが大切な仕事もありますが、僕の場合は、ファッションという常に変化していくものが相手ですから、新しいものが受け付けられなくなっては困ります。

──捨てるという行為はすごく怖いですよね。でも、本人がどんなに全力で自分の持っているものを捨てても変えても、それを外側から見ると、ずっと変わらないその人らしさ、そのブランドらしさってあると思うんですよ。自然と残る幹の部分、それがそれぞれの個性なのかもしれないですね。

C:表面が変わっていくことで幹がしっかり見えてくるのかな。
自分では捨てたと思っていても、周りからは変わって見えないかもしれないですね。
捨てるというマイナスの行為が、プラスに働くんだと思います。
自分がやってきたものを一度否定することで、新しいことにトライできる、進化していく。
どんなに削っても、「におい」のようなものはちゃんと残ります。
余計なものが落ちていって、芯が太くなっていきます。

自分では捨てたつもりでも捨てていないこともあって、やっぱり大事にしてきたものを捨てるのは辛いですし、今も葛藤がたくさんあります。
でも、そうやって余分なものは削ぎ落とし、芯の濃いしっかりした部分をいっそう出していきたいと思っています。


[ おまけ ]
千田デザインのバックミュージック5枚
・Weezer / Weezer 
・Oasis / Dig out Your Soul
・U2 / No Line On The Holizon
・Nirvana / Nevermind
・Coldplay / Viva La Vida Or Death And All His Friends




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About〈・・・〉

ディレクター・千田仁寿が、〈CHENTO OTTO〉〈DEZART〉を経て2001年より始めた。
〈サージュデクレ〉とは、「賢明な」を意味する仏語の「sage(サージュ)」と「布告」という意味の「decret(デクレ)」を掛け合わせた造語。
ステッチやジッパー、ラインやフォルム、染めや素材、縫製に至る細部にまで、一枚の洋服における様々な役割について、考え抜かれたワードローブを提案している。
また、ブランドの基本概念としてワーク、ミリタリー、トラディショナルこそメンズウエアのベースであると主張。洋服の歴史的な背景や伝統は重んじながらも、既成概念に捕われ過ぎないデザインと、洗練されたギミックを上手く表現している。
そのため、高いファッション性を備えながら、どこかリアリティを感じさせるブランドに仕上がっている。ここ「・・・」では千田の声を通してブランドの世界を紹介します。