sage de cret

• • •

2009.11.27

Bible

sdc0911dots001.jpg

ブランドの背景にスポットを当て、ものづくりの秘密に迫る「・・・」。
sage de cret アイテムのデザインやシルエット、ディティールはいったいどこからくるのか。
ディレクター千田に話を聞きます。


《過去に作られてきた服》

──ブランドらしさが宿る箇所でもある商品のデザインやシルエット、これらの企画されていく過程で、何かヒントになるものがあったりするのでしょうか。

千田(以下C):音楽や映画、旅行などがモチベーションやインスピレーションの源になってくれるという話は以前もしましたが、もう少し商品に近い具体的な部分で言うと、やはり過去に作られてきた服がヒントになることもあります。
ミリタリーアイテムなら実際に各国の軍用品、モーターサイクルのアイテムでは過去に実際使われていたレーシングウェアなどです。

──やはり現行のものより過去のものが多いですよね。

C:時期はバラバラかな。
現行で装備されているものがモチーフになっていることもありますよ。
ミリタリーなら第一次世界大戦の頃のものから現在にかけて。
軍用を目的としたウェアが本格的に作られるようになったのが、だいたいその頃からのはずです。


《エッセンスとして》

──19世紀以前だと、当時を題材にしている映画などを思い返してみると、士官は礼服で、その下の兵士は皆自分の着やすいもの、動きやすいものをそれぞれ着て集まっているような印象がありますね。

C:僕自身もミリタリーの専門家ではないので正確なことは言い切れませんが、おそらく当時20世紀初頭までのハンティング用のウェアを、目的に応じて進化させていき、それがミリタリーアイテムになっていった側面もあるようですね。
軍用の装備品が産業として拡大したのが一次大戦からですので、資料もそのころから今にかけてのものです。

──資料というのは、具体的には実際のウェア現物なんですか。

C:実際の服もありますし、あとはそういうものを集めた写真集みたいなものも多いです。
国内で出版されたものもありますが、洋書が中心ですね。
ヒントにすると言っても、実際にそれをそのまま商品にすることはまずなくて、ディティールやパーツを参考にしたり、プロポーションのバランスがヒントになったりと、エッセンスとして商品に入ってきます。


《自分を通してモディファイしていく》

sdc0911dots002.jpg

"Uniforms, Weapons and Equipment of the WORLD WAR II G.I."
C:第二次世界大戦時のアメリカの軍備品を写真で紹介している本ですね。
この本で紹介されているマガジンを入れるためのベルト、これはパンツのポケットのデザインのモチーフにしたことがあります。

sdc0911dots003.jpg

──そのまま同じものを作るというのでなく、部分的に別のものになって現れてくるんですね。

C:いろいろな資料の中から拾い出し、それを自分を通してモディファイしていきます。
僕が持っているもののうち、洋書は全般的にものを写真1枚でポンポン紹介しているのに対して、日本国内で出版されてものは写真も、ひとつのアイテムを色々なパーツ毎にディティールまで紹介した、より資料集的な色合いの強いものが多いですね。

──ディティールとは別に、N-3BやM-65、M-51のように、モデルそのものが多くのファッションブランドのモチーフになっているものもありますよね。

C:それだとこの"フライトジャケット ブランド・カタログ"がおもしろいです。
これはミリタリーブランドのカタログムックで、細かいところまで紹介しています。

sdc0911dots004.jpg


《『トップガン』とMA-1ジャケット》

──ミリタリーというのは sage de cret にとって大きな要素のひとつだと思いますが、千田さんとミリタリーとの接点はどういったところから始まっているんですか。

C:80年代後半になると思います。
30才代以上の人なら誰でも知っている映画、『トップガン』でMA-1ジャケットが大流行し、当時DCブランド全盛時代に、MA-1を代表としてミリタリーアイテムが街中で着られるようになった頃です。
戦争を題材にした映画は、テーマがテーマだけに、ヒットした映画でも、どうしても内容が重いか暗い要素を持っていますが、『トップガン』はとにかく明るくて、MA-1の人気もものすごかったです。
それまで一部の人しか着なかったミリタリーウェアが、MA-1の大爆発をきっかけに、後に続く「渋カジ」「裏原」ブームを経て完全にファッションアイテムとしての地位を得ました。

sdc0911dots005.jpg

C:当時僕は〈DEZERT〉にいたのですが、アルファ社のMA-1をアメリカから仕入れてきて、それにグログランテープを打ったりジッパーやハトメに手を加えたリメイクをし、さらに製品染めをかけたものを作ったのですが、これが爆発的に売れて、大ヒットシリーズにつながっていきました。
当時は「製品染め」という手法がまだ珍しいもので、新鮮に受けとめられたのを記憶しています。


《ヨーロッパのミリタリーアイテム》

C:今ではレディースでも、例えばM-51、いわゆる「モッズコート」ですね、これをモチーフにしたものも定番アイテムとなり、ミリタリーものがファッションアイテムの1つの要素となっていますが、その多くは米国軍の装備がモチーフとなっています。

──お話伺いながら、そのことが気になっていました。sage de cret はフランスやイタリアのミリタリーアイテムをモチーフにしたものもありますよね。

C:そうですね。
もちろん sage de cret でもU.S.のアイテムをベースにしたものも作っていますが、フランス、イタリア、あとはドイツなど、ヨーロッパのミリタリーアイテムも、うちではモチーフや部分的なディティールとなっています。

sdc0911dots006.jpg

"DOURSOUX"
C:これはフランスで発行されたもので、フランス軍の装備品も多く掲載されています。
フランスを始め、ヨーロッパのものはU.S.に比べるとなかなか資料が少ないです。

ミリタリーウェアは、当然のことながらその特性から、ファッション性より実用性を求めてデザインされるわけですが、フランスのものはやはりファッション性もすごく高いです。
U.S.のようにキャッチーではないので、ポピュラーなものにはなりにくいのですが。

sdc0911dots007.jpg

この本の中に掲載されているベストをベースに、ポケットなどの仕様をオリジナルな形に手を加えていって作ったことがあります。
ベストは元をたどるとハンティングやフィールド系アイテムがルーツで、ヨーロッパではハンティングは貴族の娯楽として歴史も古いので、それがこういったことも現れてきます。


《自国の産業や技術の結晶》

C:ヨーロッパの服作りはベースにテイラードというものが大きくあり、その辺りもU.S.とは異なる部分だと思います。
それに、MA-1やN-2Bは、U.S.の装備品の中でも気温の低い戦闘機内での環境に合わせて生まれてきた特殊なものですので、ヨーロッパのものとではだいぶ趣きも違います。
20世紀に入ってからの世界大戦は、各国がそれぞれ自国の産業を総力で戦争に向けるので、ミリタリーアイテムは当時の国が持つ最先端の技術の結晶であり、国ごとの個性も自ずと反映されていることも興味深い部分です。


《カーブひとつをとっても美しい》

sdc0911dots008.jpg

"Uniform of the Waffen-SS"
C:これは第二次大戦時前のドイツ軍の資料です。
来春のコレクションで生産予定のジャケットで、ここにあるウエスト部分を絞るためのスピンドルの仕様を使っているものがあります。

sdc0911dots009.jpg

このスピンドルは身頃の部分と同じ素材を使っていています。
作りも、ウエスト部分をぐるりと一周させず、左右の脇と腰の生地を切り替えた部分から、前身に向けてそれぞれ2本ずつスピンドルが入っています。
しかも2本のうち1本は前身で縫製によりより固定されているという、ものすごく凝った作りになっています。

──さらっと見逃してしまいそうですが、すごく複雑な作りになっていますね。

C:このスピンドルは脇を絞るためのものですが、背中を一周させてしまうと背中の部分も絞られてしまうし、2本入れて、そのうち1本を固定しておかないと、脇もきれいに絞れない。
こういう仕様にすることで、機能面で的確なのはもちろん、見た目にもとても美しいシルエットになります。
テイラードがベースにある中から生まれてきたことを、強く感じさせてくれる仕様です。
他にもこの本を見ていると、ヨーロッパのウェアならではのシルエットが美しさを強く感じます。
ポケットにつくフラップのカーブひとつをとっても、本当にきれいですよね。

sdc0911dots010.jpg

このパンツの、フラップとボタンの配置バランスも、うちのブルゾンに使ったことがあります。


《テイラードの手法》

C:イタリア軍の資料でブルゾンの作りを見ていても、例えば身頃と袖のパーツがつながる肩の袖山のシルエットが、U.S.とは全然違います。
イタリアのものは袖山が高い。

──肩の部分がしっかりと張っているってことですね。

C:ひとつには設計上の違いがあり、それに伴う袖と身頃の縫製行程の違いによるものなのですが、イタリアのものはテイラードに用いる手法がとられていて、この方がずっと手がかかるんですが、仕上がりは人の体に合った立体的な形となり、シルエットラインが圧倒的に美しくなります。
sage de cret のジャケットでもこの手法を採用しているものが多いです。


《機能性を突き詰めた中から生まれてきたデザイン》

C:イタリアのものは本にしても払い下げのウェアにしても、他の国のものに比べてなかなか手に入りづらいんですよ。
フランスのものも、ウェアは蚤の市で現物の払い下げがあるくらいかな、U.S.に比べると入手ルートが少ない。
U.S.は納入メーカーによるレプリカなどもファッションアイテムとして多く流通していますが、ヨーロッパのものは、手に入れようと思ってもほとんどが実際に軍に納入されたものの払い下げだけになります。
こういった資料はなかなか貴重で、服作りのバイブルとも言えます。

sag de cret にとってミリタリーモチーフのアイテムは、重要な要素のひとつですが、僕は軍用品の専門家ではないし、ミリタリーマニアでもありません。
ウェアに限らずミリタリーアイテムというのは、機能性の善し悪しが兵士の生命すら左右するもので、つまり、機能性を突き詰めた中から生まれてきたデザインの美しさが魅力のひとつだと思います。
この「・・・」の一番最初の回でも話したとおり「ワードローブをサポートしたい」という思いでブランドをやっている訳ですが、ミリタリーアイテムが持つ機能とデザインの独特の要素を、ファッションを楽しむ人に届けていきたいと思っています。
あとは、例えばテイラードをモチーフにした場合、それ自体が決まってしまっていて、デザインを動かしづらいのに対し、ミリタリーは自由度が高くブランドとしての解釈を表現できるというのも、作り手としての魅力のひとつではありますね。






Comments

Latest • • •

Vintage [ part3 ]
Vintage [ part2 ]
Vintage [ part1 ]
Archive

About〈・・・〉

ディレクター・千田仁寿が、〈CHENTO OTTO〉〈DEZART〉を経て2001年より始めた。
〈サージュデクレ〉とは、「賢明な」を意味する仏語の「sage(サージュ)」と「布告」という意味の「decret(デクレ)」を掛け合わせた造語。
ステッチやジッパー、ラインやフォルム、染めや素材、縫製に至る細部にまで、一枚の洋服における様々な役割について、考え抜かれたワードローブを提案している。
また、ブランドの基本概念としてワーク、ミリタリー、トラディショナルこそメンズウエアのベースであると主張。洋服の歴史的な背景や伝統は重んじながらも、既成概念に捕われ過ぎないデザインと、洗練されたギミックを上手く表現している。
そのため、高いファッション性を備えながら、どこかリアリティを感じさせるブランドに仕上がっている。ここ「・・・」では千田の声を通してブランドの世界を紹介します。